スノーボードカービングターンでのエッジに乗る動作を力学的に考察

2022年7月18日月曜日

オフトレ カービング スケートボード 技術解説

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スノーボードカービングターンでのエッジに乗る動作を力学的に考察


はじめに

 オフシーズン期間も来期の上達を目標に、スノーボードカービングターンに必要な動作を力学的に解説したいと思います。
 ご存知のようにカービングターンはスノーボードを立ててエッジに乗りボードをたわませてターンを行います、多くの人は実はこの言葉だけでは実際に何をすれば良いのか良く解らないのでは無いでしょうか。
 本ブログでは誰にでも理解出来る様に一連の動作を個々に検証します。

 今回はカービングターンで重要な「エッジに乗る動作」に関して改めて力学的に考えてみましょう。


状態の変化

 スノーボードカービングターンでは滑走中ボードを立ててエッジに乗った瞬間からボード上の重量配分はそれまでとは全く異なる状態に遷移します。

 ボードが寝ている状態はソール全体で重量を支えているため復元力を有する安定した状況ですが一旦片側のエッジで立った瞬間からそのエッジの両側の荷重配分が釣り合っていないと即座に傾いて倒れてしまうやじろべえ的な不安定な状況になります。

 カービングの練習をはじめて間もない頃、上手くボードを立てることが出来た瞬間グラグラととても不安定で少し恐怖感を感じた事は無いでしょうか。
 これは気のせいでは無くて事実物理的に不安定なのです。
 スノーボードでは感覚だけに頼るのでは無く事実関係を理解した上で練習する事が上達への近道となります。

エッジに乗るとは

 図示してみると解りやすいと思います。
 又室内等でも簡単に試してみる事が出来ます、是非とも御自身で試してみて下さい。
 別記事の ボードを立てる動作 ではスライドターン等でボードの上に立っている状態が自立性の高い安定した状態である事を解説しました。
 そして今回のテーマ「エッジに乗る」動作とはボードを立てた後にボードのエッジだけが雪面と接した状態で立つものです。
 このエッジを支点としてボードから身体全てを支えて立っている状態は安定性のかけらもありません。
エッジに乗る図
 点(直線)のみで支えている為この支点の両側の荷重が正確に同じで無い限り必ず重い側に倒れます。
 エッジに乗ると言う事はこの不安定な状態でバランスを保ち続ける操作を行う必要が有る事を改めて意識しその準備を行うことが大切です。

状態分析

 一口にバランスを取ると言ってしまいましたがスノーボードはヨコノリのスポーツです。
 従ってトゥサイドのエッジに乗っている状態とヒールサイドのエッジに乗っている状態とでは身体各部の位置や関節の使い方が全く異なります。

基本形

 基本的な状態を図で確認してみましょう。
 身体のモデルを定義します。
 足のサイズを元に足首から膝は足の2倍、膝から腰も足の2倍のサイズ、腰から首は足の2.5倍そして頭部は足の1.5倍でモデルを作成します。

 ヒールサイドの場合、足首、膝の関節を屈曲させると腰の部分がボードから離れて行きます。
ヒールサイド基本形の図
 それに釣り合う分量を頭部を中心に逆側にはみ出させる必要が有る為股関節を多めに屈曲させて釣り合いを取ります。

 トゥサイドの場合は少し複雑です。
 原則トゥ側のエッジの外には膝がはみ出ますが、膝関節を深く屈曲させる事により腰から上の身体をヒール側のエッジに移動させます。
トゥサイド基本形の図
 移動量の微調整は股関節の屈曲により頭部の位置で行います。

 続いてこの状態を基本形として滑走状況に合わせて変化させる方法を考えてみましょう。
 この基本形では重心位置がボードから離れてやや高めです。これは静的な安定性としては有効ですが雪面状況の変化に対応する動的な安定性の為には重心位置は低くボードに近い方が有利です

低い重心位置

 重心位置を低くする為に基本形から重心を下げる必要があるのですが単純にはいきません。
 エッジで立つ為の条件 エッジ両側の荷重は等しい を維持したまま重心を下げる必要が有る為です。
 ヒールサイドの場合
ヒールサイド低重心の図
 膝の屈曲と股関節の屈曲を同時に大きくする事でエッジ両端の荷重を調整しながら重心を下げる事が出来ます。

 トゥサイドの場合
トゥサイド低い重心の図
 ヒールサイドと同様に膝の屈曲と股関節の屈曲を同時に大きくする事でエッジ両端の荷重を調整しながら重心を下げる事が出来ます。

 ここで改めて基本形の図と重心を下げた図を見比べて下さい。
角付量一定の図
 何か気付く事は内でしょうか?
 そうです! 重心位置は変わってもボードの立ち方、角付け量は変化していません。
 これも意外と認識されていませんがカービングでボードを立てる動作と重心位置を変化させる動作は別の物です。
 
 別記事で記載予定ですがカービングターンでボードに加重し、たわませる際にはこの様な角付け量を変えない重心移動を応用する事が必要になります。
 

オフトレと実滑走との違い

 ここまでの解説はあくまでもオフトレとしてカービングターンに必要な動作の1つを単純化し練習可能な形態にした物です。
 実際の滑走はこれに様々な要因が加わった複雑な物になります。
 この為、次のシーズンが始まった時にはオフトレで得た動作を実滑走に適合させる練習から始める事になります。
 では実際には何が異なるのか確認して行きましょう。

スノーボードのサイドカーブ

 基本形のモデル等では簡略化の為無視しましたが、現実のスノーボードのエッジは直線状では無くサイドカーブと呼ばれる湾曲した状態になっています。
 この為ボードのエッジを立てて行くとスノーボード自体はしなりながら(フレックス)立つ事になります。
 結果、雪面とエッジの接する部分は直線では無くて"弧"となり安定度は直線よりも増します。
直線と孤の図
 と言っても滑走中の体感では余り差を感じる事は出来ない程度の物です。

平地と斜面

 改めて言い出すまでもなく練習は平地で行いましたが滑走中のターンは斜面で行います。
 斜面上を下りながらのターンに使用する動作ですから斜面に対しても横方向では無くて角度を持った方向です。
 重力と斜度とスノーボードの方向の組合せになりますのでは想像以上に複雑です。
 ここでその全容を解説するには時間が足りませんので一部、これまで検証して居なかった重心の前後バランスを考えてみましょう。
トゥtoヒールの図
 図のような斜面でトゥサイドからヒールサイドに切り替える際を例とします。
 通常のカービングターンではフォールラインを真横に横切る訳では無く図のように斜めに横切ります。
 このとき平地の様に前後の中央位置で雪面に対して鉛直方向に身体を維持しているとすると
斜面での重心変化の図
 赤破線が重心位置です。
 斜度が存在すると前足側に大幅に移動してしまう事が解ります。
 道具も何も使わなくてもスロープの上で立ってみるだけで実感できます。

 このままボードを立てて乗ったとしても前足に荷重が集中し後ろ足のエッジの掛かりが悪くなる為斜度に合わせて重心位置を調整した上でボードを立てて乗る必要が在ります。
重心補正の図
 背後からみた側面図です。
 左の膝(橙)の屈曲は浅く右の膝(緑)の屈曲を深くする事により骨盤を後方に移動させます。
 これだけでは重心が後ろ過ぎて"後傾"になる危険が有りますので、股関節(青)の屈曲で上体を前足の上に移動させる調整で重心位置をセンターに維持します。

 実滑走中にはほとんど意識しないと思いますが実際にバランスを維持したままエッジに乗ろうとする為にはこの様な詳細な身体操作を正確に行う必要が有る訳です。

静止状態と移動状態

 これも当然の事なのですが滑走中はボードも身体も移動しています。
 特にターンに入った状態では滑走軌跡が円弧を示す為 遠心力 が発生しボードや身体全体をターン外側に移動させる力が発生します。
 不安定なエッジに乗っている状態に更に異なる方向の外力が加わる為随時対応を続けバランスを維持する必要が在ります。

おわりに

 今回はカービングターンで使用するエッジに乗る動作に関して考察してみました。
 如何でしょうか。
 これまで何となく雰囲気や勢い、感覚でカービングの練習を行って来た人も多いと思いますがスノーボードの上で起きている現象を理解した上で練習すると色々な事がスッキリしてくると思います。
 是非ともオフシーズンの間にこの様な関連知識を詰め込んで下さい。
 シーズンイン後にきっと役立ちます!


 スノーボード技術的解説記事はこちらも参考にして下さい!
 実走時の記事




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